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封仙娘娘追宝録・奮闘編『人喰らう雑貨店』
つうわけで、封娘二次創作第二弾。
得性手の話に出てきた石ころの宝貝のお話。
時間軸としては完全にこっちが先だからこっちから読んでもまあいいんじゃね。
あんまりよくないけど(

なんか無駄に長くなったり、だれた割には解決が簡単すぎて自分で冷めてしまった感が。
その分、文章にも出てるはずだ。完全に駄文。
逆にねじくれた解決して、やっぱりこんな解決もあったんだ、って話にすりゃよかったか?
めんど。(




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 部屋にはやけに鼻につく香りが漂っている。それぞれは嫌な匂いではなかったが、これだけ集まれば匂いも武器となる。
 強烈な匂いの原因は、様々な植物を調合して吸い出した芳香水なるもの。本来はいい香りを楽しむためのものだ。
 他にも、何をかたどったのかわかりかねる置物や飾り、不可解な人形などがある。
 謎の置物も大いにあったが、可愛らしい意匠を凝らした小銭入れや装飾品なども同じくらいあった。
 それらは、何段にもなった棚の上や、天井から吊るされたりと、部屋一帯に詰め込まれていた。
 それほど広い部屋でもないそこは、ある種の混沌とも言えた。
 そんな混沌の奥に、小銭が乱雑に撒かれた、腰の位置くらいにある横長の卓。卓の向かいには一人の中年……と呼ぶにはまだ少し早い男、藍峯(らんほう)が会心の愛想笑いで立っていた。
 街の端にある雑貨屋。
 民家群の中なので、さして店といった風もない家の一部屋を店としているそこに、溢れんばかりの客が押し寄せている。
 その光景は異様でしかなかった。
 まるで家が人を吸い込み、飲み込んでは吐き出しているかのように見えた。
「いらっしゃいませ。いらっしゃいませ」
 次々とわき出る客に接客用の笑いを振りまいて、せっせと店のやりくりに明け暮れる藍峯。
 近所の住人は怪訝な顔でその奇妙な光景を客観していた。
 というのも、客が異常に多いだけでなく、最近まで藍峯の店には人っ子一人いなかったのだ。住人が怪しむのも無理はない。
 その中にはよくない噂をたてる者も当然いた。
 だがどれも根拠が全くないものばかりだった。
 何しろ客はちゃんと品物をひとつは買って行ってるし、どこから来るのか、毎度見たこともない顔の者が来ている。客層も老若男女と多種多様。無論、店は繁盛している。
 その説明がつく噂など、ほとんどなかった。
 しかし噂の中には確実に的を得るものもあった。
 その噂の主は冗談で言ったにも関わらず。

「……見るからにこれは宝貝(ぱおぺい)の仕業だろう。そうでないはずがない」
 次々と人を飲み込んでいく雑貨屋の前で、一人の青年が見事一発で的を得た回答を出した。
 青年の名は殷雷(いんらい)。その正体は殷雷刀、刀の宝貝である。
 現在、人の姿をとる殷雷刀は、長い黒髪に猛禽類を思わせる鋭い眼光、片手には銀色の棍を持っている。
「たしかに……宝貝っぽいね」
 殷雷の隣りにいた娘、和穂が言った。
 歳の頃は十五、六。年頃の娘にしては珍しく、袖の大きい白い道服を着てる。
 一見普通の娘に見える彼女も実は元仙人だった。
 ある日、和穂はひとつの失敗によって仙人の造った神秘の道具、宝貝を、本来あるべきでない人間界にばらまいてしまった。
 それらの宝貝はただの宝貝ではなく、欠陥として封印されていた欠陥宝貝。
 彼女は責任を感じ、仙人の力を封じて宝貝を回収している。
 二人が言った通りにそれは宝貝の能力だった。この店のどこかに宝貝があるはずなのだ。
 殷雷は真剣なまなざしを雑貨屋に向ける。
「……とはいえ、和穂」
「うん」
 言ってる合間にも、客が入りまた別の客が出たりとせわしない。
「どうやって入ればいいんだ?」
「……さあ」
 宝貝回収の旅は困難を極めた。

「いらっしゃいませ。いらっしゃいませ」
 店主の声はやむことがない。
 今や奇跡の愛想笑いを浮かべている。
 しかし次の瞬間、藍峯の顔から奇跡が失われた。
 目線の先には、和穂と殷雷がわずかに存在する通路を埋める人込みをかき分けて入って来ている。
 藍峯も宝貝の所持者なので和穂たちの話くらいは知っている。
「なんて店だ。おい、店主はどこだ。出てきやがれ!」
 殷雷は、客とは程遠い、借金取りのようだった。
 その怒号をものともせず他の客たちは品定めに励んでいる。
 いくら借金取りが来たとてこの客の中で無視も出来ず、藍峯は答える。
「はい、なんでしょう」
 なんとか卓の前まで辿り着いた殷雷の返事は、単刀直入かつ強引だった。
「宝貝を返せ。しらばくれても無駄だ。こんなの宝貝の仕業に決まってる」
「ちょっと、殷雷」
 藍峯は顔をしかめる。
 事実を隠しても無駄だと考え、答えた。
「……私には魅凡丸(みぼんがん)が必要なんです。これが無いとこの店も……」
「…………」
 和穂もつられて神妙な顔で話を聞く。
 だが殷雷は冷静に質問した。
「魅凡丸の効果はなんだ」
「魅凡丸に触れて指定した人物を魅凡丸自身の範囲に集める、ただそれだけの力しかありません。
 今は『客』と指定しています」
「それでこの客の量ってわけか」
 話していると、藍峯の後ろの戸からまだ幼い少女が顔を出した。
「ねぇお父さん、いつ遊んでくれるの?」
「あぁ、今お客さんが来てるからちょっと待っててな」
「…………」
 少女はそれだけ言い、黙って隣の部屋へ戻った。
「……お子さんですか?」
「ああ。美芳(びほう)と言うんだ。妻に似てかわいいんだが、妻はあいつを産んですぐに死んでしまってね。私一人で育てているんですよ」
 そこまで聞いた途端、殷雷はそっぽを向いた。
 すぐに和穂には殷雷の行動の意味がわかった。
「……わかったわかった。明日また来るから考えとけ。
 和穂、言っとくが同情なんてするなよ。俺たちは宝貝を回収しなきゃならない」
「殷雷」
 その言葉は、和穂ではなく自分自身への言葉だと本人は気付いていない。
 殷雷刀の欠陥は、武器の宝貝なのに情にもろいこと。
 和穂も同情していないわけではなかったが、しているのはむしろ殷雷の方であった。
「じゃあ、また明日来ます」
 和穂は丁寧に言い、先に店を出た殷雷を追った。

「なんだと、宝貝を失くしただと!」
「す、すみません!」
 剣幕に押されて藍峯は慌てて謝罪した。
「失くしたというのにこの客はなんだ」
 客の量はたしかに少し減ったが、魅凡丸がなくなっても店は賑わっていた。
「使用者の範囲に効果が残ってるんじゃないの?」
 和穂が簡単な推測をする。
「いえ、魅凡丸は魅凡丸の範囲以外には効果がありません」
「ならこの客はなんなんだ。まさか元からこれだけいたというのか? それなら魅凡丸は必要あるまい」
「魅凡丸が無かった頃は誰一人として客はいませんでした。
 おそらく魅凡丸が呼ぶ大量の客が宣伝になって、本来の客が残ってるのではと」
「……そんな都合のいい話があるか。
 まあいい、もう魅凡丸は必要ないだろう。勝手に探させてもらう。和穂、行くぞ」
 殷雷がしゃべってる間に、和穂は索具輪を使って魅凡丸の位置を調べていた。
「……索具輪が調子悪くてどこにあるかわかんない」
 索具輪はたまに原因不明の不調になり、宝貝の位置を正確に把握出来なくなる。
 それを聞いた殷雷は矛先を藍峯へと向けた。
「おい、魅凡丸はどこだ」
 もはや無茶苦茶だった。
 和穂は今にも襲いかかりそうな殷雷を止める。
 いつのまにか藍峯の後ろでその様子を見てた美芳が言った。
「……あの宝貝ってやつなら河原に捨てたよ。
 それなのにお父さんはお店ばっかり」
「……美芳、悪かった。今度からはちゃんと遊んでやるからな」
 殷雷はばつの悪い顔をして指で額をかいている。
 代わりに和穂が言った。
「美芳ちゃん、その河原まで案内してくれる?」
「うん」
「あ、魅凡丸は効果を解除するか、別の指定をするまで効果が続きます」
 雑貨屋の店主は丁寧に宝貝の効果を説明してくれた。
「ありがとうございます、……えっと」
「藍峯です」
「藍峯さん」
 笑顔で言い、和穂たちは雑貨屋をあとにした。

 藍峯の店から近くにその河原はあった。
「ここ」
「それらしきものはないけど……」
 川が流れるそばの、石がたくさん敷かれた岸。
 辺りには石ころか川くらいしか見当たらない。
「美芳ちゃん、どこに捨てたの?」
「この岸のどっかだよ」
「どこかってな、嬢ちゃん。石ころしか無いじゃないか」
「だからその宝貝ってやつ、石ころだったの。ここなら探しに来ても見つからないと思って」
 子供の発想は豊かだった。
「……木を隠すなら森の中、ってか。ずいぶん気が利くお子さんだこと」
「とにかく探そう、殷雷。
 美芳ちゃん、ありがとうね」
「がんばってね、お姉ちゃん」
 言って美芳は帰って行った。
「……頑張れって、ひとつずつ探していけってか?」
 子供の言葉に軽口をたたく。
「……どうしようか」
 さすがの和穂もその太い眉をひそめて困っていた。

「うーん……あ!」
「……和穂、もう思い付きで言うのはやめろよ」
 殷雷は疲れていた。
 それは魅凡丸に『客』を呼べば場所が特定出来るのでは、という和穂の安易な提案に踊らされた結果だった。
 殷雷の変身能力を使って『客』を発生させたは良かったが、魅凡丸の範囲は意外に広く、河原に人が集まっただけにすぎなかった。
「ううん、今度は大丈夫。断縁獄で魅凡丸を直接回収すれば……」
「普通、そっちの方が先に思い付くだろう」
 自分のことは棚に上げ言う。
「じゃあ……魅凡丸!」
 和穂は腰につけた瓢箪の宝貝を持ち、宝貝の名を呼んだ。
 が、何も起こらない。
「…………」
「まだ効果中だから吸い込めないんじゃないか」
 断縁獄は抵抗するものは吸い込めない。
「そっか。なら、石ころ!」
 今度は辺りの石をどんどんと吸い込む。
 その場にたったひとつだけ、敷かれていたものとなんら変わらない石ころが落ちていた。
 それが魅凡丸だった。
 宝貝の姿を見て殷雷は、安堵と共に製作者へ愚痴をこぼした。
「……龍華(りゅうか)よ、頼むからもっとまともな宝貝を作ってくれ」

『魅凡丸』
 指定した人物を呼び寄せる石の宝貝。欠陥は普通の石と区別がつかないこと。
 作者の龍華自身も区別がつかなかったため封印された。何故この形態にしたかは龍華以外にはわからない。


by vlfd | 2006-06-09 23:14 |
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